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ココロの森

ココロの森

銃声





     『 銃声 』






 見つかってしまった。

       もう、だめだ。。。。






身を潜めていたソファーの背が外され
若い兵士が 私を認めた。




  
  銃口が私を狙う。





もう 動けなかった。
恐怖と 震えと 恐れと 嫌悪。





死が 怖いのぢゃない。
 その瞬間が怖い。
そして
その前に訪れるであろう
 戦慄の宴 ───





  お願いです。
   殺すなら どうぞ今 ひと思いに。
  一瞬の苦しみで
   私のいのちを 撃ち抜いて下さい・・・





上官が呼ばれた。
ベージュ色の軍服をキリリと着こなした将校が現れ
ぼろぼろの衣の私を 見下ろした。




 兵達は 命令を待った。




 静寂が訪れた。






私は 目をきつく閉じ
胸の前でぎゅっと 掌を組みあわせた。






  「この女は 死んでいる」






将校はそう言った。
驚いて目を開けた。
連絡兵が 何か言いかけたのを遮り




  「この女はもう死んでいる。
   死んでいる人間をわざわざ撃つことはない。」




とだけ言うと 踵を返した。







 銃口は降ろされ
 私は身体中のちからというちからが抜け
 その場にへたり込んだ。





将校は兵士達に 基地に戻るよう指示を出した。
兵は 散った。






 将校は 最後に振り向いた。




  「君も早く逃げたほうがいい。
   じきに 奴等が来る。」





驚いて見つめる私の目を
一度だけ真っ直ぐに見て
彼はその場を去った。






  助かった。
   
  助かったのだ。


 



 遠くなる将校の背に 一度だけ深々とお辞儀をして
 私は 裏山へ逃げた。







枯れ草や石ころに 裸の足をとられながら
私は裏山を夢中で駆けた。
息を切らしながら中頃まで登った時
遠く眼下で銃声が響いた。







   あのひとだ。







今まで隠れていた小屋に
たくさんの兵士が入っていく。




私は逃げた。
夢中になって逃げた。

 泣きながら 
    鳴きながら

声をあげて鳴きながら逃げた。






追っ手が 数人、
山に入ってくるのが見えた。






 将校さま



 お助けいただいたいのちですが
 じきに私もそちらに参りましょう。

 次の世に生まれ変わったら
 また必ずや お目にかかりとうございます。
 そして今 言えなかった言葉を
 あなたさまにお伝えしとうございます。

 あなたさまの背中に向かって
 心の中で叫んだ言葉を。




   ありがとう と。




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